セミの鳴き声が、17歳の夏を引き連れてやってきた。田舎の高等学校に通う二年生の安藤ハジメ(葉山奨之)は、非常勤教師の水沢ヒカリ(中村ゆり)に恋をしていた。ヒカリが教えてくれたのは、美術。いつも飲んでいたのは、生ぬるいミルクティ。安藤が、17歳らしい滑稽さと愚直さに満ちた恋心を向けるうち、ヒカリも次第に安藤を受け入れ始め、やがて二人は、安藤をモデルに絵を描くという名目の下、夏の午後を共に過ごすようになる。みずみずしい性意識の萌芽と、大人たちの未知なる世界に片足を踏み入れてしまったという焦り、同世代の青年たちにはなく、自分だけに許された淡い優越感を感じつつ、安藤はヒカリの待つ美術準備室へと足繁く通うようになる。安藤にとって、そこで過ごす時間というものは学びの時でもあった。日を重ねるごとに増えていく新しい知識。誰かの手によって自分の姿が描かれていく喜び、クリムトの絵、無為に時間が過ぎていくことすら心地が良いということ。しかしながら、一人の青年の成長の裏側では、安藤の幼なじみ・山崎アカリ(黒島結菜)が、安藤への成就しない片思いに苦しんでいた。そして、心を苦しめることも、幸福を分け与えることもできてしまうまるでナイフのような青い春に、突然、突風が吹きヒカリとの別れが訪れる。別れの言葉一つもなく、ヒカリは学校を立ち去り、安藤はただ一人あの場所に残されてしまう。立ち去る前、ヒカリは描いている絵を安藤に決して見せようとはしなかった。「完成したら」と約束をしていたが、その口約束は何の意味も成さなかった。アカリに催促された安藤は、やるせない思いのまま、ただ一人美術準備室に向かう。そして白布が被せられたイーゼルが、部室の片隅に残されていることに気が付いた。安藤は戸惑いながらも、白布に手を掛ける。そして、その覆いの下に見たものとは……。